ひなた号の冒険の魅力

テーマは家族

家族というのは、不思議なものだ。子どもにすれば、オギャーと生まれた瞬間から家族という器を与えられる。不幸にしてそうでない子どもたちも大勢いるが、誰かに守られて、育てられて私たちは成長していき、いつしか自立し、そして離れていく。ある者は新しく家族をつくり、家族を守り、また育てるが、それもいつかは時の流れの中で変化し、様々な形でお互いに別れを告げていく。いつまでもそこにあり、離れていても、いつかは戻れると疑わないのだけど、何か夢まぼろしのように儚く感じることもなくもない。

ひなた号の冒険〜7つの島の伝説〜は、家族がテーマである。ひなた船長には、バラバラになってしまった7つの島を一つに繋げる使命が与えられる。残された地図を頼りに、ひなた船長とサル介、アイシャ、チーコといったクルーの仲間たちが、力を合わせて、島々をバラバラにした正体不明の怪物と戦う。

島々で出会うのは、夢見る少女や、働き詰めのサラリーマン、葛藤する親子などであるが、それぞれが閉じられた島の中で、にっちもさっちも行かず、苦しんでいる。それは日常の私たちの生活そのものなのだが、ひなた船長は、そこに温かい光を照らし、突き刺さった棘さえも、家族の営みの中で必要なことだと思わせてくれる。登場人物の対話ややりとりを通じて、徐々に島々をバラバラにした怪物の正体も浮き彫りにされていくのであるが、その実体は本公演で是非自分の目と耳で確かめて欲しい。

ひなたなほこの心象風景として描き出された7つの島とそこで語られる家族像は、私たちが人生の様々な場面で感じたり、経験したりすることだ。物語が展開する中で、それぞれの過去の記憶が蘇ってくるだろう。ひなたなほこの歌は、それを少し甘酸っぱく思い出させ、やさしく包んでくれる。

底辺に流れるやさしいまなざし

家族をテーマにした作品であるけれど、底辺を流れているのは、ひとりの人間としての孤独や寂しさに対する温かいまなざしだ。私たちは家族の一員として、あるいは社会のなかの構成員として、日々様々な人たちと関わり合い、繋がってはいるが、一人の個人として生まれ、生きて、死んでいく。孤独であることの不安や切なさは、いつまでもつきまとう。

舞台の上で、それを一身に背負うのは、風景を探す海賊船ひなた号のひなた船長であり、その切ないまでの純粋さに、観客は心を強く打たれる。旅を続けるひなた号には、仲間たちが乗船し、いつも賑やかだが、ふとした瞬間にひなた船長の孤独が見え隠れする。

皆が去ったデッキに立ち、ひなた船長は一人になる。その姿を観客が見るとき、ひなた船長の風景を探す旅の先に、どうか幸せが見つかるようにと祈らずにはいられないだろう。

ひなたなほこの歌は、孤独を否定しない。埋めようともしないし、隠そうともしない。ただ、「みんな同じだから大丈夫だよ」と、やさしく声をかけてくれる。そのひとことに、私たちは永遠の呪縛から逃れることはできないとしても、きっと心の奥で慰められるのである。ひなたの曲を聴けば、普段はあたり前のようにいる家族や友人という存在が、少しちがったように見えてくるに違いない。

相手の孤独を感じるとき、私たちは、はじめてつながることができる。そのことをひなた号の冒険というミュージカルは、気づかせてくれるのだ。大人にも、子どもたちにも、是非観て欲しい。

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